【1】節句とは何か、その由来
1-1.節句と節供はどう違う
まずはじめにですが、「せっく」と検索してみると「節句」と「節供」この二つが使われていることがわかります。この違いとは何でしょう、使用に当たりなにか特別な決まりごとでもあるのでしょうか。
たとえば神社本庁の公式サイトを見るとこんな記述があります。
もともと節句とは”節供”と書き、宮中で1年間の節目の日に天皇に供された食事を意味しました。
引用元: 神社本庁公式サイト節供
どうやら本来は「節供」と書かれていたようです。しかし節句も節供も意味は同じ、特別な違いはありません。しかしなぜ節句が使われ出したのか、ちょっと調べただけではわかりません。まあ、あまり深く考える必要もなさそうです。
1-2.節供の意味
節供とは中国から伝わったものです。節供の「節」は季節の変わり目、節目となる日、節日(せちにち・せちび)とも言われています。これは中国の暦法で使われる言葉です。また「供」は供御(くご)、神さまにお供える食物のことです。
節句は平安のころ中国から伝えられ、日本の文化や風習と合わさり日本独自の文化として発展してきたものです。また季節ごとの旬の収穫を神々に供物として捧げ、五穀豊穣や無病息災、子孫繁栄を祈ったことです。供物を共に口にすることで人々が絆を強めた行事でもあったのですね。
1-3.五節句の始まり
やがて江戸になると五つの大事な節日が、重要な年中行事を行う日・祝日となりました。これが五節供の始まりです。
ただ制度そのものは明治6年(1873年)の「五節供廃止令」により廃止されてしまいました。しかし今でもお正月の七草粥や桃の節句、七夕まつりなど季節をたのしむ行事として私たちの暮らしの中に残っています。
【2】五節句とはなにか
2-1.日にちを知っていますか
五節供とは
- 1月7日:人日(じんじつ)七草の節供
- 3月3日:上巳(じょうし)桃の節句
- 5月5日:端午(たんご)菖蒲の節句
- 7月7日:七夕(しちせき)七夕祭
- 9月9日:重陽(ちょうよう)菊の節句
のことです。
2-2.陽が重なれば陰が極まり
五節句の日を見るとすべて奇数が並んでいます。中国では奇数は「陽数」と呼ばれ縁起のよい数とされています。しかしこの奇数が並べば縁起の悪い偶数(「陰数」)になってしまいます。
「陽」が重なると「陰」が極まるわけです。これを避けるための邪気払いが節句の始まりとも言われています。
では次にこの五つの節句について、その由来や歴史また食文化を見てみましょう。
【3】1月7日の人日には「七草粥」を
3-1.七草の節句
人日とは1月7日の朝に七草粥を食べ1年間の無病息災を願うという習慣です。もともとは武家の間に伝えられたのですが、江戸期になると庶民にも広がりました。
そしてこの七草とは、
- 芹(せり)
- 薺(なずな)
- 御形(ごぎょう)
- 繁縷(はこべら)
- 仏の座(ほとけのざ)
- 菘(すずな)
- 蘿蔔(すずしろ)
の七つです。
今では「お正月の御馳走で疲れた胃腸をいたわる日」としてもおなじみですね。
3-2.なぜ1月7日なのか
古代中国では、1月の
- 1日を「鶏の日」
- 2日を「犬の日」
- 3日を「猪の日」
- 4日を「牛の日」
- 5日を「羊の日」
- 6日を「馬の日」
- 7日を「人の日」
とする風習がありました。そしてこの日になると占いをしてその動物を大切にしたそうです。ここから人の日である7日が「人日」になったのだとか。
ただし1月7日といっても旧暦における1月7日です。残念ながら季節感のズレた今のカレンダーにおけるこの日では、天然の七草を摘むことはできません。でもスーパーに行けば簡単に手に入りますが・・・。
【4】3月3日の上巳には「菱餅・雛あられ」を
4-1.赤・白・緑に込められた思い
この日は「ひな祭りの日」としてよく知られていますね、女の子の健やかな成長を願う日です。旧暦の3月上旬、巳の日に行われたため上巳と呼ばれている、といった話もあります。
ひな祭りと言えば、「菱餅(ひしもち)」や「雛あられ」といったお菓子がセットでイメージできますね。そしてその色を見ると使われているのが「赤・白・緑」です。この色にも意味があることを知っていますか。
- 赤は魔除け
- 白は清らかさ
- 緑は健康
こんなところにも純粋な思いが込められているのです。
4-2.旧暦3日は三日月です
お雛様や調度品の鮮やかさは、いかにも女の子の節句らしく華やかです。この飾りをぜひ月明りでご覧になってはいかがでしょう。
旧暦3日は三日月です、控えめでやさしい月光と雪洞(ぼんぼり)のぼんやりとした灯りに幻想的に浮かび上がる雛飾り・・・。雅な世界、奥ゆかしさを感じてみましょう。
4-3.流し雛のルーツとは
古代中国ではこの日になると、川で身を清め不浄を祓うといった習慣がありました。こうした風習が日本にも広がったのですが、平安時代になると紙の人形(ひとがた)に穢れを移し、それを川や海に流すことによって不浄を祓うようになりました。
これが今でも日本各地に残っている「流し雛」のルーツなのだそうです。これまた優雅な話ですね。
4-4.桃は仙木とも呼ばれています
人日でも触れましたが、五節句の日付は旧暦における日付を今のカレンダーに重ねただけです。だから季節が1カ月ほどズレています。上巳は別名「桃の節句」といいますが新暦上の3月3日に桃は咲きません。
ちなみに桃の節句と言われる理由は、旧暦のこの日は桃の花の開花時期と重なるから。また桃は仙木(せんぼく)とも呼ばれています、この木の持つ不浄を祓う生命力にあやかりたいといった願いもあるのでしょう。
そういえば桃太郎もこの木から生まれていますね。
【5】5月5日の端午には「柏餅」を
5-1.家督が絶えない縁起物
5月5日といえばGWのまっ最中「こどもの日」として誰でも知ってます。この日は男の子の成長を祝う日、男子の節句です。端午とは男の子の立身出世への願いが込められた習慣です。
この節句になると「柏餅(かしわもち)」を食べる習慣がありますね。
柏の葉はたとえ枯れても、次の春になり芽が出るまで落ちることはありません。そこで「家督が絶えない」と縁起物となったそうです。
5-2.菖蒲湯に浸かる理由
中国においてはこの日になると「菖蒲」や「よもぎ」を摘み、門に飾ったり菖蒲酒を飲むなどして邪気を払うといった習慣がありました。香りの強さから菖蒲やよもぎは薬草としても知られたものです。
この習慣は日本にも広がり、今でも菖蒲湯に浸かるなどとして残っています。菖蒲には保湿効果があり血行促進にもよいとされています。また菖蒲に含まれる精油成分は、リラックス効果など嬉しい働きもあるそうです。
5-3.鯉の滝登り
そしてこの日と言えば「鯉のぼり」ですね。もともとは武家が家紋の入った幟(のぼり)を立てていたものなのだとか。この鯉のぼり、滝を昇った鯉が龍になったという中国の伝説にあやかったものです。
【6】7月7日七夕には「そうめん」を
6-1.星祭り!中国と日本の伝説が
七夕と言えばお祭りです!お願い事を書いた短冊を、笹の葉に吊り下げる日。またベガとアルタイルの七夕伝説でもおなじみですね。
星祭りとか七夕祭りとも呼ばれているこの行事。これは中国だけではなく日本の伝説も合わさったものです。たとえば「七夕」と書いてなんで「たなばた」と読むのか知っていますか。
6-2.棚機つ女
たなばた、この言葉は「棚機つ女(たなばたつめ)」という日本の伝説に由来するのだとか。棚機つ女とは穢れのない少女のこと、彼女いは棚造りの小屋にこもり神に捧げるための神聖な布を織るのです。そして神の降臨を待つのです。
やがて少女は機(はた)で織った布を神に捧げ、村を病気や災厄が起こらないよう願うのですが。この「棚機つ女」が「たなばた」になったそうです。
6-3.ベガとアルタイル!七夕伝説とは
まず整理しておきましょう。ベガ(Vega)とは、こと座の1等星。こと座で最も明るい恒星のことです。七夕伝説における「おりひめ星(織女星(しょくじょせい))」のことです。
アルタイル(Altair)とは、わし座の1等星。わし座で一番明るい恒星のこと。七夕伝説における「牽牛星(けんぎゅうせい)・彦星」のことです。
では七夕伝説とは何かなのですが、中国で生まれた伝説に前述した日本の棚機つ女の信仰が合わさって出来た話のようです。
織女は毎日、天の川のほとりで熱心に機(はた)を織っていました。神様たちの着物の布を織っていたのです、遊びもせず熱心に。そんな健気な彼女のために親父である天帝は、天の川の対岸で牛を飼っている青年「牽牛」を織女に引き合わせたのです。
そして二人は結婚したのです。
しかし・・・、
その後二人は幸せいっぱいのルンルン気分。二人して仕事もサボり毎日遊んで暮らし始めたのです。するとどうでしょう、神様たちの着物はボロボロにすり切れていましました。そして牛たちも、すっかりやせ細ってしまったのです。
これを知り天帝は激怒、二人を天の川の両岸に引き離してしまったのです。
こうして離れ離れにされた二人、二人は深い悲しみに沈みました。毎日泣くばかり。とても仕事も手に付きません。

しかしそんな二人を不憫に思ったのでしょうか。天帝は二人が毎日まじめに働くのなら、年に一度だけ「7月7日の夜」に会わせてやると約束したのでした。
だいたいこんな話ですか。詳しくは専門書などをご覧ください。
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6-4.なぜ「そうめん」なのか
7月7日はそうめんの日です、こんな日があるなど初めて聞きました。もちろんこれは中国とはぜんぜん関係はありません。全国乾麺協同組合連合会がこの日に「そうめん」を食べる習慣を呼び起こしたく1982年に制定したそうです。
しかしなぜ「そうめん」なのか、同連合会HPによると、平安期には健康を祈願七夕日にそうめんを食べたと記録があるのだとか。熱病を流行させた霊鬼神が、子供時代の好きな料理が祟りを沈めるということで、その食べ物が「そうめんである」と言った説に由来するそうです。
【7】9月9日の重陽の節句には「菊酒」を
7-1.最大の奇数の9が重なる日
旧暦のこの日は別名「菊の節句」です。今ではすっかり忘れ去られたかのようですが、特に武家の間ではとても重要な行事でした。
前述したように中国では奇数は「陽の数」といって縁起の良いものでした。そして一桁における最大の奇数「9」が重なる(重九と呼ばれていました)9月9日は大変めでたい日であったのです。ちなみに重陽とは陽が重なるといった意味ですね。
7-2.観菊の宴
したがってこの日になると霊力と生命力にあふれた菊の花を飾り、酒を酌み交わし祝ったのでした。ここ日本においても平安の頃より中国の習慣にならい、宮中では菊酒を飲み詩歌を楽しむ「観菊の宴(重陽の宴)」が催されました。
7-3.菊酒とは
菊が日本に伝来されたのは奈良時代であるそうです。香りの強い菊は中国においては薬草として親しまれており日本においても薬用・漢方薬として用いられていました。
また食用の菊には「グルタチオン」という成分が含まれており殺菌効果があるのです。刺身のツマに使われるのはこのためです。
重陽の節句にたしなまれた菊酒とは盃に菊の花びらを浮かべその移り香を楽しむものです。あなたも一杯いかがですか。
【8】五節句を新暦に換算すると
8-1.季節がひと月ズレてしまいます
年中行事はたくさんありますが、この五節句については奇数日という「日にち」に意味があります。しかしこれは旧暦上のものであり、現在使われているカレンダー上では季節がひと月ズレてしまいます。
もちろん季節に合わせ旧暦の日付を一か月遅れにしたものもあります。
たとえば、
- 奈良東大寺の修二会(しゅにえ)
- 葵祭(あおいまつり)
- 富士山の山開き
- 盂蘭盆会(うらぼんえ)
- 歌舞伎の顔見世
などが思い浮かびます。
しかし、五節句のような「日にち」に意味がある行事については、そのまま今のカレンダーに移されており季節感や旬が失われてしまいました。
五節句のほかには、
- お正月
- 初午(はつうま)
- 灌仏会(かんぶつえ)
- 七五三
などがありますね。
8-2.この国に生きる喜びと幸せを
さいごに五節句を現在使われている暦に換算してみます。
節供 | 旧暦 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
---|---|---|---|---|
人日 七草粥 | 1月7日 | 2月7日 | 1月28日 | 2月16日 |
上巳 ひな祭り | 3月3日 | 4月3日 | 4月22日 | 4月11日 |
端午 こどもの日 | 5月5日 | 6月3日 | 6月22日 | 6月10日 |
七夕 星祭り | 7月7日 | 8月4日 | 8月22日 | 8月10日 |
重陽 菊 | 9月9日 | 10月4日 | 10月23日 | 10月11日 |
たとえば・・・、
2022年の七夕なら
- 旧暦上では7月7日
- 新暦上では8月4日
になることがわかります。。
節句には季節感が欠かせません、旧暦の7月7日は「上弦の月」ですね。控えめな明るさ、やや傾いて弓を張ったような優雅な姿をしています。七夕は梅雨明けの星空に堪能するから意味もあるのです。
だから、今度迎える節句は本来の季節に行いませんか、節目を意識して新たな季節を向かえるために。そして四季のうつろいと風物詩を、また何よりも美しいこの国に生きる喜びと幸せを実感しましょう。
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